藤川勝丸

毛利 輝雄

登場人物

毛利 輝雄

毛利 輝雄

1892-1936

自動車工業の先駆けとして— 不世出の技師 東京瓦斯電で活躍

9海外実業練習生派遣制度

福岡工業学校が創立した、明治29年(1896)農商務省は、日清戦争後の近代日本の実質的確立を目指し、またそれによる貿易拡張計画の一環として、経済・工業・農業・芸術等の分野で先兵となって実動する人材を育成するため海外実業練習生派遣制度を創設した。
 研修する業種は、染織、機械、化学、電気の諸工業はじめ農林、水産業から一般商業、美術工芸まで18の広い業種分野におよんだこの制度は、留学先として、英国、仏国、米国、独国、伊国などの欧州各国、支那、印度など16 ヶ国に及んでいる。昭和3年(1928)まで30年間継続され、練習生の合計は857名にのぼっている。
 審査によって選抜される志願者は、3 ヵ年の練習期間を与えられ、その資格は中学校卒業以上とし練習する実業に1 ヵ年以上の経歴を有する者、練習目的地の語学に堪能であることであり、また練習資金は原則として自費支弁であったが、練習地に応じて支給される練習補助費その他の費用は農商務省の海外貿易拡張費として確保されていた。
 大正11年(1922)に農商務省商務局が発刊した、海外実業練習生一覧には明治29年以降各年の「実業練習生採用員数及其練習科目表」がある。これにより各年度の産業別の練習生数がわかるが、当局がどのような産業技術に重点をおいて導入していったかがうかがえる。例えば、彫刻家として名高い高村光太郎(明治40年度/仏国)の室内装飾彫刻や、1名だけの綾部策雄(明治30 年度/ハンブルグ)の捕鯨業などの特徴的な例もある。
 明治29年度の10名にはじまり、毛利が試験に合格した大正9年度は15の業種について89名が採用されて、この時点までに合計648名が練習生となっている。
 また、大正9年度は、雑工業19名、一般商業18名、機械工業12名、化学工業10名の順となっている。

自動車に関わる練習生
 練習生が研修した15業目に分けられたなかの機械工業のうち、研修テーマを「発動機・自動車関係」とした練習生をみると、橋本増次郎※ 26(明治35年/愛知/米国/機械製造業)
 加藤重男  (大正元年/東京/米国/内燃機関製作)
 星子 勇  (大正3年/熊本/米国/発動機及自動車)
 須藤 勇  (大正7年/大阪/英仏国/飛行機及自動車用発動機製造)
 堀  久  (大正8年/岡山/仏国/自動車)
 竹場露嘉  (大正10年/愛媛/米国/外輪※ 27製作業)
 山縣順三郎 (大正10年/福岡/英仏国/航空発動機及航空機製作)
 松本明吉  (大正13年/岩手/米国/自動車製作業)
などがいた。
注:( )は、順に採用年度、出身府県、留学地、研修内容を示す。
このうち竹場露嘉については後述するが、毛利の4年後輩となる大正5年(1916)に福岡工業学校機械科を卒業しており、出身工業学校を同じくする例は少ないものといえる。

自動車組立工場主任となる
 大正14年(1925)に欧米派遣留学から帰朝して、瓦斯電に復職した毛利輝雄はこれまでの働きに加え、研鑽した最新技術を生かした更なる手腕を期待されて自動車組立工場主任を命ぜられた。このとき自動車部長は星子勇であった。
 自動車工場は、これまでのホイスト工場に移転して、施設の新築や新鋭の機械などを導入し自動車部が拡張された。このような改変には、自動車製造とホイスト製造を同一視する重役もいたが、首脳の判断を受けて移設作業を実質断交したのが毛利輝雄であった。これにより後に、石川島自動車製作所を瞠若させることになり、後に惹起した満州事変の際の生産に対応することができた。

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